道具を揃え、豆を理想の粒度に挽き、お湯を最適な温度(85℃〜90℃)に整えたら、いよいよ抽出のスタートです。 ハンドドリップは、ただお湯をかける作業ではありません。コーヒー粉から「美味しい成分」だけを計画的に取り出す精密な化学実験なのです。
1. 最初の30秒:「蒸らし」は抽出の準備運動
お湯を少量注ぎ、30秒ほど待つ「蒸らし」。この工程が味の8割を決めると言っても過言ではありません。
- ガスの排出(脱ガス):
挽きたての豆には炭酸ガスが詰まっています。いきなり大量のお湯を注ぐと、このガスがバリアとなってお湯が粉の内部に浸透するのを邪魔してしまいます。 - お湯の通り道を作る:
少量の水分を含ませることで、粉がふっくらと膨らみ、お湯が通りやすい状態(通り道)が整います。 - 成功のサイン:
豆がふっくらと膨らむのは、ガスが適切に抜け、美味しい成分が溶け出す準備ができた証拠です。
2. 抽出の3段階:溶け出す成分の順番を知る
コーヒーの成分は、お湯に触れている時間によって「溶け出す順番」が決まっています。
- 序盤:酸味と旨味:
抽出を始めてすぐ、最も水に溶けやすい酸味と旨味が溶け出します。 - 中盤:甘みとコク:
続いて、コーヒーのボディを作る甘みやオイル分が抽出されます。 - 終盤:苦味と渋味:
最後に、溶けにくい苦味やエグ味、渋味が顔を出します。
科学的なポイント: 美味しいコーヒーを淹れるコツは、「終盤の余計な成分が出る前に、抽出を切り上げる」ことにあります。
3. 実践!「3投・3分」のゴールデンステップ
豆15g、お湯240g(1:16の比率)を例にした、最も再現性の高い注ぎ方です。
- 第0投(蒸らし): 30g〜40gのお湯を注ぎ、30秒待つ。
- 第1投(酸味・旨味): 80gほどを円を描くように注ぐ。中心から「の」の字を書くように。
- 第2投(コク・甘み): 残りのお湯の半分を注ぎ、コーヒーの濃度を調整します。
- 第3投(調整): 残りのお湯を全て注ぎ切り、スケールが240gになった瞬間にドリップを終了します。
注意!「最後まで落とし切らない」: ドリッパー内に残った最後のお湯には、渋味や雑味が凝縮されています。スケールの数値が目標に達したら、お湯が完全に落ち切る前にドリッパーを外す。これが、後味のクリアなコーヒーを作る最大のコツです。
4. なぜ「円を描いて注ぐ」のか?
これは「均一抽出」のためです。 一箇所にドバドバとお湯を注ぐと、そこだけが過剰に抽出され(過抽出)、他の部分は十分に抽出されない(未抽出)というムラが生まれます。 全体を優しく、かつ一定のペースで攪拌するように注ぐことで、全ての粉から均等に美味しさを引き出すことができます。
まとめ:時間は「美味しさの指標」
タイマーが「2分30秒〜3分」の間に全ての工程が終わるようにコントロールしましょう。
- 3分以上かかる: 挽き目が細かすぎるか、注ぐスピードが遅すぎます(苦味が強くなる傾向)。
- 2分以下で終わる: 挽き目が粗すぎるか、注ぐスピードが早すぎます(酸味が強く薄い傾向)。
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