先日、貴重なコーヒーの生豆をいただく機会に恵まれました。「これはもう、自分で焙煎するしかない!」と奮起したものの、我が家にあるのはIHコンロ。
「IHでの自家焙煎なんて無理だろう…」 そう思っていた時期が私にもありました。しかし、IHの精密な温度制御と均一な加熱能力は、もしかしたら自家焙煎にこそ真価を発揮するのではないか?
この記事では、無謀とも思えるIHでの自家焙煎に挑戦し、試行錯誤の末に「これはいける!」と確信したプロセスを、科学的な視点を交えながらご紹介します。
1. IH自家焙煎の「武器」と「懸念」
IHの強み(これは使える!)
- 精密な温度設定: 火力レベルだけでなく、温度センサーを搭載したIHなら1℃単位での調整が可能。これが焙煎の肝となります。
- 安定した加熱: 炎と違い、鍋底全体を均一に加熱できるため、焼きムラを最小限に抑えられます。
- 安全性: 火を使わないため、火災のリスクが低く、熱中症の心配も少ないです。
IHの懸念(乗り越えるべき壁)
- 遠赤外線効果の欠如: ガス火のような遠赤外線による内部加熱が期待しにくい。
- 排煙: 焙煎中に発生する煙の処理。キッチン換気扇のフル稼働は必須です。
2. 準備したもの:科学的焙煎のための秘密兵器
- 生豆: 今回焙煎する生豆:ドミニカ共和国 アルフレド・ディアス農園
今回手に入れたのは、カリブ海の陽光を浴びて育ったドミニカ産の逸品。非常にクリーンで雑味がない。オレンジのような明るい柑橘系の酸味と、後味に広がるアーモンドのような香ばしい甘み。 - 焙煎鍋: IH対応の「厚手のステンレス製ミルクパン」(直径15cm程度)をチョイス。熱伝導率が高く、豆を振りやすい形状が決め手でした。
- 温度計: 鍋の底に直接触れるタイプの「デジタル温度計」。これがIHの火力レベルと鍋底温度をリンクさせる生命線です。
- 冷却用ザル: 焙煎後の豆を素早く冷やすため、二重構造のステンレスザル。
- うちわ: 冷却時に豆を煽ぐため。
- タイマー(IHのタイマー使用): 1秒単位で正確に時間を測ります。
- 軍手: 鍋が高温になるため必須です。

3. 実践!IHで自家焙煎「温度曲線」を意識する
焙煎は、豆の内部で起こる化学反応をコントロールする作業です。特に重要なのが「温度曲線」。今回は以下のフェーズを意識して行いました。
豆の繊細な酸味を消さず、かつ甘みを最大化させるため、今回は「1ハゼ終了直後(ハイ〜シティロースト)」をターゲットに設定しました。
フェーズ1:乾燥(投入〜5分)
- IH火力設定: レベル3(約160℃)
- 作業: 豆を鍋に入れ、絶えず振り混ぜる。
- 科学: 豆に含まれる水分をゆっくりと蒸発させ、内部の温度を均一に上げる期間。この段階で焦げ付かせると、後味に悪い影響が出ます。
- アルフレド・ディアス農園の豆は、サイズが揃っていて非常に密度が高い(硬い)のが特徴です。そのため、IHの「レベル3」での乾燥工程をより1分長く取り、芯までじっくり熱を浸透させました。結果として、1ハゼが始まった瞬間にドミニカ特有の「甘い花のような香り」がキッチンに溢れ出し、まさに科学と自然が融合した瞬間を味わうことができました。
「IHで鍋を振って大丈夫?」という疑問。実は、ガス火のように浮かすのは厳禁です!私は、鍋を天板にしっかり接地させたまま「水平に高速スライド」させる方法を取りました。これならIHの加熱を一切止めず、かつ豆を均一に転がすことができます。さらに、今回は秘密兵器として「ホイッパー」を導入。スライドと同時に中で激しくかき混ぜることで、IHの安定した熱源を100%豆に伝えることに成功しました。
フェーズ2:メイラード反応(5分〜10分)
- IH火力設定: レベル4(約180℃)にアップ
- 作業: 豆の色が徐々に黄色〜茶色に変化。振り混ぜは継続。
- 科学: 豆の糖とアミノ酸が反応し、香りや風味の元となる物質が生成されます。甘みや香ばしさを作る重要なフェーズ。
フェーズ3:1ハゼ(10分〜12分)
- IH火力設定: レベル5(約200℃)
- 作業: 「パチパチ」という音が聞こえ始めたら「1ハゼ」のサイン!煙が増え始める。
- 科学: 豆の内部で水蒸気が膨張し、繊維が弾ける音です。ここから本格的な焙煎がスタート。豆の色が急速に濃くなり始めます。
フェーズ4:本焙煎〜2ハゼ手前(12分〜15分)
- IH火力設定: レベル4(約180℃)に少し下げる。
- 作業: 1ハゼが落ち着き、豆の色や香りを注意深く観察。好みの焙煎度でストップ。
- 科学: 豆の細胞壁がさらに破壊され、苦味やコクが生成されます。2ハゼ(連続したパチパチ音)まで進むと深煎りに。今回は1ハゼがピークアウトしたあたりで終了しました。
4. 衝撃の結果とIH焙煎の可能性
最終的に、約15分で、狙い通りの「ミディアムロースト」に到達! 期待していなかったIHでの均一な加熱のおかげか、豆の焼きムラが非常に少なく、香ばしいアロマがキッチン中に広がりました。
急いで冷却し、豆から立ち上る湯気を嗅ぐ。この瞬間の感動は、お店で買う豆では決して味わえないものでした。
実際にドリップしてみると、想像以上にクリアで、豆本来の甘みと香ばしさが際立つ1杯に。 「IHだから無理」という先入観は、完全に打ち破られました。
まとめ:IHは自家焙煎の隠れたポテンシャル
IHコンロでの自家焙煎は、ガス火とは異なるアプローチが必要ですが、その「精密な温度管理」という特性を理解すれば、非常に再現性高く、質の良い焙煎ができることを実感しました。
もちろん、慣れないうちは煙や火加減に戸惑うかもしれませんが、自宅で「育てた」コーヒー豆で淹れる1杯の感動は、その全てを上回る価値があります。
ぜひ皆さんも、IHでの自家焙煎に挑戦して、自分だけの「究極の1杯」を探求してみてはいかがでしょうか。
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